オクラン麺屋（韓国）の出演者一覧
「オクラン麺屋」は2018年にKBSで放送された全2話の秋夕特集ドラマで、70年間続く平壌冷麺専門店を舞台に、家族の絆と南北問題を描いた心温まる作品です。本作品に出演した実力派俳優陣の詳細なプロフィールと、それぞれが演じた役柄の魅力について深掘りしていきます。
オクラン麺屋の主演シン・グの演技キャリアと代表作
シン・グ（申久、1936年8月13日生まれ）は、韓国演劇界の重鎮として知られる大ベテラン俳優です。本作では、70年続く平壌冷麺専門店「オクラン麺屋」の一代目店主ダルジェを演じています。
シン・グは1962年に舞台「牛」でデビューし、1969年にKBS公採タレントに選出されて以来、主人公の父親役を数多く演じてきました。2010年には文化勲章を授与され、その功績が国家レベルで認められています。
ダルジェ役では、南北戦争で生き別れた元妻オクランとの約束を胸に、90歳近くになった今でも再会を切に願い続ける老人を熱演しています。病気により体が不自由になってからは店に立てなくなったものの、息子ボンギルに対する厳しさの中に深い愛情を込めた演技は、さすがベテラン俳優の貫禄を見せつけました。
特に印象的なのは、ヨンランが作った冷麺を一口食べて「明日から出してもいい」と完食するシーンです。息子の冷麺は一口で投げ捨てていたのに、ヨンランの冷麺に対する反応の違いは、単なる味覚の問題ではなく、故郷への思いと妻への愛情が込められた深い描写となっています。
オクラン麺屋のキム・ガンウが演じた40歳息子の複雑な心境
キム・ガンウ（김강우、1978年7月11日生まれ）は、オクラン麺屋の二代目ボンギル役を演じました。40歳になっても父の元を離れられず、冷麺作りでは一度も父に認められたことがないという複雑な立場のキャラクターです。
キム・ガンウは多彩な演技力で知られる実力派俳優で、映画「野獣と美女」（2005年）、「食客」（2007年）、「純情漫画」（2008年）など数多くの作品に出演しています。特に「食客」では料理人役を演じ、今回の冷麺屋の息子役にも通じる料理への情熱を表現した経験があります。
ボンギル役では、父に認められたい気持ちと都会に出たい願望の間で揺れる中年男性の心境を巧みに表現しています。土地開発を担当している幼馴染みとの板挟みになりながらも、最終的には家族と店を守る決意を固める成長過程が丁寧に描かれています。
興味深いのは、ヨンランとの出会いによって彼の人生観が変化していく過程です。最初は彼女に対して感じ悪く接していたボンギルが、徐々に彼女の人柄と能力を認めるようになり、自分自身も変わっていく姿は、キム・ガンウの演技力あってこそ表現できた微妙な心理変化でした。
オクラン麺屋のイ・ソルが演じた謎めいた脱北者女性の魅力
イ・ソル（이설）は、謎に満ちた脱北者女性ヨンラン役で強烈な印象を残しました。カラオケでコンパニオンとして働いていたところをボンギルに助けられ、オクラン麺屋で住み込みで働くことになります。
ヨンランというキャラクターの最大の特徴は、その正体が最後まで明かされないことです。名前以外、名字も年齢も故郷も一切教えてくれない謎めいた女性でありながら、冷麺作りの才能は抜群で、ダルジェからも一発で認められるほどの腕前を持っています。
イ・ソルの演技で特筆すべきは、言葉に出さない感情表現です。ヨンランの素性について何も語らないにも関わらず、その表情や仕草から脱北者としての複雑な境遇と心の傷が伝わってきます。また、完璧に仕事も家事もこなしながらも、どこか影のある女性を自然体で演じており、視聴者の関心を最後まで引きつけました。
ヨンランの存在により店が繁盛し始めるという設定も興味深く、脱北者問題を扱いながらも希望を感じさせる展開となっています。イ・ソルは「ある日〜真実のベール」での新米弁護士役でも印象深い演技を見せており、今回のミステリアスな役柄でもその演技力を十分に発揮しています。
オクラン麺屋の助演キャスト陣の個性豊かな演技
主要三人以外にも、「オクラン麺屋」には個性豊かな助演キャスト陣が出演しています。イン・ギョジン（인교진）とチェ・デチョル（최대철）らが脇を固め、物語に深みを与えています。
特に注目すべきは、ハン・ソヒ（한소희）がボンギルの元恋人役で出演していることです。現在は「マイネーム」や「わかっていても」などで大ブレイクしているハン・ソヒですが、当時はまだ無名の新人女優でした。放送作家という設定で、ボンギルとの過去の関係を通じて彼の現在の状況を際立たせる重要な役割を果たしています。
また、土地開発を担当するボンギルの幼馴染み役も、単なる悪役ではなく複雑な立場の人物として描かれており、現代韓国社会の再開発問題を反映した設定となっています。これらの助演陣の存在により、家族の物語だけでなく、社会問題についても考えさせられる作品に仕上がっています。
オクラン麺屋の演出・脚本陣による独特な世界観創造
「オクラン麺屋」の演出を手がけたのはキム・ジョンヒョン、脚本はチョ・ヨンが担当しました。全2話という短い尺の中で、家族愛、南北問題、脱北者への理解、地域開発問題など多くのテーマを巧みに織り込んだ作品となっています。
演出面では、平壌冷麺という料理を通じて南北統一への願いを表現する手法が印象的です。ダルジェが70年間続けてきた冷麺作りは、単なる商売ではなく、離ればなれになった妻オクランとの約束を守り続ける行為として描かれています。
脚本の巧妙さは、現代的な問題（土地再開発、脱北者問題）と普遍的なテーマ（家族愛、世代間の対立）を自然に融合させた点にあります。ヨンランという脱北者キャラクターを通じて、南北問題を説教臭くならずに描いており、エンターテインメント性を保ちながら社会的メッセージを伝えることに成功しています。
また、全2話という限られた時間の中で、各キャラクターの成長と変化を丁寧に描写している点も評価に値します。特にボンギルの心境変化と、家族三人（ダルジェ、ボンギル、ヨンラン）の疑似家族としての絆の形成過程は、短時間ながらも深い感動を与える仕上がりとなっています。